サクソフォン・コロッサス、燃え続けた95年の呼吸
By Silent Energy Inc.[公式] on
Pitchforkが、ジャズの巨人ソニー・ロリンズの逝去を伝えている。サクスフォン・コロッサスと呼ばれた男は、95歳までその名のとおり屹立し続けた。
この訃報が照らし出すのは、華やかな全盛期ではなく、橋の上でひとり吹き続けた沈黙の時間のほうかもしれない。表舞台から退いては戻り、退いては戻る。その往復運動の中にこそ、長く燃え続ける炎の正体がある。
Sonny Rollins, Jazz Luminary and Saxophone Legend, Dies at 95 (Pitchfork)
元記事を読む:
https://pitchfork.com/news/sonny-rollins-jazz-titan-dies-at-95/

サクスフォンという楽器は、肺と唇と指、そして時間を食らう。
吹き込む息は数十秒で消えるが、その息を一生かけて磨き続けた人がいた。ソニー・ロリンズ、95歳。Pitchforkが伝えた訃報は、ひとつのジャズの時代の幕引きであると同時に、長く燃え続けるとはどういうことか、という問いを残していった。
橋の上の沈黙
ロリンズの名前を聞いて、まず思い浮かぶのは1956年の『Saxophone Colossus』だろう。「St. Thomas」のあの陽気で複雑なフレーズは、26歳の若者が放った宣言だった。
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だが本当に彼を彼たらしめたのは、その後の沈黙のほうかもしれない。1959年、人気絶頂のさなかに彼は突如として表舞台から姿を消し、ニューヨークのウィリアムズバーグ橋の上でひとり練習を続けた。隣人に迷惑をかけないため、というのは表向きの理由で、実際には自分の音と向き合うための場所を探していたのだろう。
上手より深く。
岡本太郎が「うまくあってはいけない」と言ったのを思い出す。すでに頂点にいる者が、頂点を捨てて橋の上に立つ。この奇妙な後退は、後退ではなく潜行だった。2年後、彼は『The Bridge』とともに戻ってくる。橋という場所が、そのまま作品の名になった。
退いては戻る、その往復
ロリンズのキャリアは、隠遁と再起の繰り返しだった。1960年代後半にも彼はインドや日本に渡り、禅に触れ、ヨガを学び、再び沈黙の時期に入る。
京都の禅寺の庭が、掃いては落ち葉が降り、また掃く、という反復の中で形を保つように、彼の音楽人生もまた、引いては寄せる波のリズムを持っていた。
全盛期と呼ばれる時期の演奏を聴くと、その往復の意味がわかる。
アルバム『Tenor Madness』(1956年録音)
当時、同じく絶頂期に向かっていたもう一人の天才サックス奏者、ジョン・コルトレーンとの唯一の公式共演が実現した、ジャズ史上屈指の熱いアルバム
長いフレーズが、息継ぎの限界を超えて続く。サーキュラー・ブリージング(循環呼吸)を駆使しながら、彼は「歌う」というより「祈る」に近い領域へ入っていった。
コルトレーンの祈りが垂直に天へ伸びる炎だとすれば、ロリンズのそれは横へ横へと広がる 川 のような持続だった。
サックスを長く吹き続けることがどれほど過酷か。アンブシュア(口の形)は加齢とともに崩れ、肺活量は落ち、指は鈍る。
多くの管楽器奏者は60代で第一線を退く。ロリンズが70代、80代になってもステージに立ち続けたという事実だけで、もう異形である。
最後のステージ、その後
2012年、肺の疾患により彼は演奏活動からの引退を余儀なくされる。81歳。
それでもインタビューでは「練習は続けている」と語っていた。楽器を吹けなくなっても、音楽から離れることはなかった。
近年のジャズシーンに目を移せば、Kamasi WashingtonやShabaka Hutchings、日本の馬場智章といった奏者たちが、ロリンズが切り拓いた「サックスで思想する」という地平の上を歩いている。スピリチュアル・ジャズの再評価、ロー=ファイなジャズ・ヒップホップとの接続、ECM的な静謐への回帰。トレンドはめまぐるしく変わるが、その根っこには必ず、ひとりで橋の上に立った男の影がある。
ベケットの戯曲の登場人物のように、ロリンズは何度も舞台から退場し、何度も戻ってきた。退場と登場のあいだにある暗がりこそが、彼の音楽の本体だったのかもしれない。
95年。短い息の連続で、これほど長い線を引いた人がいた。
その線は、まだ鳴り終わっていない。
静かなるエナジィなポイント:
退いては戻る往復運動の中で、95年間サキソフォンを吹き続けた潜行する炎。
1957年の革新『I’m An Old Cowhand』(アルバム『Way Out West』より)
全盛期のロリンズの圧倒的な肺活量とスピード感を。『Sonny Boy』
ジャズの伝説、ソニー・ロリンズの偉大なる生涯を振り返る(PBS(米国 公共放送))