『ホントノコト』
ホントノコトはわかりづらく
ホントノコトは見えにくい。
いろいろな情報や多すぎるコトバ
気を使うあまりにわかりづらくなるホントノコト。
でも一番伝えたい「本当の事」はシンプルで
実は愛情の塊である。
この曲は「大切な事は1回ではなかなか伝わらない」という想いを曲にした物で、楽譜にもたくさんの静かなるエナジィを秘めている。
トランペットのまっすぐな旋律で元気にさわやかに始まるこの曲だが曲を進めて行くと途中に暗号のような音の羅列に出会う。実はそこに秘密が隠されている。
その場所で同時になっているピアノの音に注目して欲しい。かすかに聴こえるピアノがここでの主旋律であり、そのメロディが動く時だけ私もその瞬間同時に同じ音を吹く仕組みになっているのだ。(譜例1)(0’50?)
Credit: Chihiro Yamazaki
その不思議な羅列の中に言いたかった旋律は既に含まれていて、一回聴いただけでは(何回聴いても)理解するのは難しいが毎回確実に伝えているという訳だ。
その後、先程ピアノが担当していた主旋律をトランペットがシンプルに丁寧に吹く場面がある。(2’24?)この裏であの音の羅列が聴こえた人はそうとう耳が良い。私のイメージを理解して形にしてくれるサウンドプロデューサーさんの粋な計らいで私の大好きな場面になった。
そしてこのMVでは音声は活かされていないが実はここでも私は大声でホントノコトを色々叫んでいる。この暖かそうな海辺の撮影日は実は11月末で、周りのスタッフはみんなダウンコートを着ているだとか、強風で全く感じられないがヘアメイクさんが終始髪をセットしてくれた事だとか、くだらない事から真面目な事まで言いたい事をもろもろと強風相手に叫んでいる。
私自身がクラシックを学んで来た過程で、何百年も前の大作曲家達が何を考えどのような時代背景で作曲に至ったのかを調べる機会がたくさんあった。音楽室の壁に必ず貼ってある肖像画の人物は一体何を考えていたのか。
興味を持ってその楽譜や時代を紐解いて行くと面白い発見がたくさんある。楽譜に隠されたユーモアたっぷりのメッセージや、クラシックコンサートそのものが当時流行の娯楽であった事、当時アイドル的存在であった作曲家も今は険しい顔をして音楽室の壁にいる。
今の時代調べれば膨大な情報を手に入れられるが、どんな気持ちであったかばかりは本人に聞かない限り正解はわからないだろう。
そんな訳で私も今の気持ちを曲に書き留めてみる事にした。これが私の曲作りの動機であり音で遊ぶようになるきっかけである。曲が生まれた経緯や私の伝えたかった事はここに記していくストーリーだが、音楽の聴き方に正解などそんな物はない。受け取った人が思った通りに心を動かされるまま、それぞれ違った解釈で良い。
そんな風にして、ことばを持たない私の音楽は自由にイメージを膨らませて楽しんで欲しい。
山崎 千裕