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600年を超えて作られ続けている布の話
By Silent Energy Inc.[公式] on
アウトドアと自転車の文化を伝える海外メディアが、スコットランドの港町ダンディーにあるワックスドコットンの工場を訪ねている。数百年前の海の知恵が、いまも現役の布として作られ続ける現場の話だ。
膜を貼るのではなく、布そのものに油を染み込ませて雨を弾く。使うほど色が抜け、折り目が白く残り、油を塗り直せば蘇る。消費されずに育っていく一着の背景に、変わらないことを選び続ける仕事の静けさがある。
Waxed Cotton with Ronnie Romance (The Radavist)
元記事を読む:
https://theradavist.com/waxed-cotton-with-ronnie-romance

雨の日、綿のジャケットに水滴が乗って、玉のまま滑り落ちていく。染み込まない。その光景の裏側には、加熱した油を布に含ませる、ひどく地味な作業がある。派手ではない。ただ、その作業は数百年前の海からまっすぐ続いている。スコットランドの港町ダンディーで、いまも油を塗り続けられている布を作る話をしたい。
海水との戦い、魚油の匂いとの戦いを経て
話は海から始まります。ワックスドコットンの起源は15世紀初頭、スコットランドのニシン漁師たちが帆を魚油と獣脂で処理し、荒天から身を守ったことにさかのぼる。船乗りたちは気づいていました。帆は海水に濡れると風をよく捕まえるが、水を含んだぶんの重さが船足を鈍らせる。濡れた帆はよく風をつかまえるが重い。乾いた帆は軽いが風を逃がす。そのバランスを、油が解いた。魚油と獣脂を塗り込むと、濡れた帆と同じように風を受けながら、油の働きで水を弾き、帆は軽いままだったのです。
漁師にとって、布の水濡れ自体も死活問題でした。海の上で濡れて凍えることは、そのまま漁獲、ひいては命を失うことに直結する。使い古した帆布は後にケープに仕立て直され、船乗りが風と潮しぶきに耐える助けになりました。ですが、魚油の匂いは、想像するだけで鼻の奥に残るもの。18世紀になって魚油が亜麻仁油に取って代わられたことは、ワックスドコットンを使う全ての人々の鼻にとって救いだったに違いありません。付け加えると、亜麻仁油で処理された綿が黄ばむ性質のおかげで、漁師の防水着はあの独特の色をまとうようになったと伝わります。あの黄色い合羽の色は、油が時間をかけて変わった結果でした。
現代では他にも欠点があります。主に二つ。ワックス加工した布は通気性があまり良くなく、現代の合成防水素材より重くかさばりがちであること。手に取るとずしりとくる。独特のしっとりした重さと、少し油の残る手触り。それでも、完全に空気を通さないわけではありません。防水で、防風で、暖かい。この布は、荒れた屋外で働く人間の体を守り続けてきました。
この布はいま、どこで着られているか
海から陸へ上がった油の布は、思いのほか広い場所で着られています。イギリスでは丈夫な雨具として売られ、当初は主に農家や猟場番人の道具でした。やがてバイク乗りたちが、モーターサイクル用ウェアという新しい市場を切り開く。畑の泥、猟場の茂み、走行中に叩きつける雨。どれも、布に油が染みていることが物を言う場面です。農家、猟場番人、バイク乗りから、この雨具はやがて漁師、射撃をする者、馬に乗る者へと届いていきました。
用途はさらに広がっています。今日ではワックスドキャンバスを使った品が、衣類や靴からバッグ、キャンプ用品まで幅を持つ。イギリスのカントリージャケットで有名なバーバーもこの布の使い手で、生地を作り供給する工場の顧客リストにその名があります。実用の布が、街着にもなった。これほど息の長い布はめずらしい。時の試練に耐えてきた発明の、稀な例だといえます。

経年で変わる価値
この布の面白いところは、着れば着るほど姿を変えること。雨を落とすだけでなく、息をして、柔らかくなり、着る人ごとに違う風合いを育てていく。色が抜け、折り目に白い線が残り、擦れた場所の表情が変わる。同じ布から作られても、二着として同じにはなりません。
そして、蘇らせることができます。油はいつか抜ける。抜けたら、また塗り直す。ある製造元の手入れの案内では、塗り直しに柔らかい布を数枚、一、二時間の時間、そしてワックスが必要だと書かれています。棒状のワックスは、缶のものと違って何層にも重ねて厚みを変えながら塗れるため、より使い込んだ風合いが出せる。買い替えるのではなく、手をかけて延命させる。新品よりも、育てた一着に価値が乗っていく。
使い捨てとは正反対の場所に、この布は立っていると言えるかもしれません。
数百年、同じ作業で油を塗り続ける港町の布に宿る、変わらないことの静かなるエナジィ。