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サッカー・プレミアリーグの現役選手が引退後のキャリア設計のため勉強に励む話
By Silent Energy Inc.[公式] on
BBC Sportが、現役のプレミアリーグ選手たちが試合や移動の合間に学び、引退後のスポーツディレクター職を目指して資格を取っている姿を伝えている。
ピッチの上で全体を動かす選手ほど、コートを降りたあとは組織を設計する側へ回ろうとする。全盛期の真ん中にいる人間が、七年先や八年先の自分のために今日の空白時間を使う。結果ではなく、見えないところで積み上がっていく準備に、この記事は光を当てている。
The Premier League footballers studying to be sporting directors (BBC Sport)
元記事を読む:
https://www.bbc.co.uk/sport/football/articles/ckq5xp9p1v31o?at_medium=RSS&at_campaign=rss

アウェイでの試合が終わり、選手を乗せたバスが夜の高速道路を走る。
窓の外は暗い。多くの選手はスマホを見るか、眠っている。
その中で一人、iPadで教材を開き、課題を進める選手がいる。まわりからは少し変な目で見られる。それでも彼は学び続けている。
長距離移動という誰にとっても空白の時間を、次のキャリアの準備に回す。そういう選手が、いま静かに増えている。
アウェイのバスという教室
エヴァートンのキアナン・デュズベリー・ホールと、コヴェントリー・シティのタイウォ・アウォニイ。二人とも今季のプレミアリーグでプレーする現役選手だ。そして二人とも、PFA(イングランドの選手会)が運営するビジネススクールで学び、スポーツディレクターに関する大学院のディプロマを取得した。
2026年の修了生として、ミッドフィルダーのデュズベリー・ホールと、ストライカーのアウォニイが名を連ねている。
目を引くのは、その学び方である。二人は教育とサッカーのキャリアを並行させてきた。アウェイ遠征の最中、チームのバスの中でも勉強していたという。デュズベリー・ホールは飾らずに明かしている。アウェイ帰りの車内でiPadを開いていて「変な目で見られた」ことがある、とも。
本人はこの学びを大げさに語らない。「まだ長くサッカーを続けたい。ただ人としては、ピッチの外でも常に学び、成長しようとしている。プレーをやめたあと、何もせずただ座っているのは嫌だ」とBBC Sportに話している。28歳、キャリアの最も良い時期にいる選手の言葉だ。
誰が学んでいるのか
2026年の修了生には、現役選手も引退した選手も混ざっている。デュズベリー・ホールのほか、元リヴァプールのファビオ・ボリーニ、元ストーク・シティのジェイコブ・ブラウン、元ウェストハムのアンジェロ・オグボンナ、元アストン・ヴィラでウェールズ代表のジェームズ・チェスター。さらにPSVのミッドフィルダー、ジャニス・カイマンや、ラツィオのミーガン・コノリーも含まれる。
チェルシーを率いてチャンピオンズリーグ決勝を制したセサル・アスピリクエタも、この学びを経験した一人だ。2021年の決勝の朝に勉強したことが、ポルトでマンチェスター・シティを1対0で下した試合に向けて気持ちを落ち着けるのに役立った、と語っている。彼はこれを引退後の準備とだけは見ていない。「引退後に備えるためだけのものではない。現役のうちに、自分をより良い存在にすることでもある」
花形のストライカーもいれば、守備の要もいる。共通するのは、ピッチの上だけで完結せず、その先の役割を想像しながらプレーしている点だ。

スポーツディレクターとは何を動かす仕事か
彼らが目指すスポーツディレクターは、日本の一般的なサッカーファンには馴染みが薄い。監督でもフロントの社長でもない。クラブの競技面の全体を、数年単位で組み立てる人だ。
仕事の範囲は広い。かつては選手の獲得とスカッド管理が中心だった。それがいまでは、クラブのサッカーとしての方向性づくり、契約戦略、男子と女子のプログラムの整合、アカデミー育成の統合、外部との交渉、経営陣と並ぶ発信役まで及ぶ。選手の売買から、クラブが数年後にどんなチームでありたいかという長期の見取り図まで、その影響は一本につながっている。
監督人事にも関わる。選手の獲得が一人の判断で決まることはまれで、ふつうはスポーツディレクターを中心とした共同作業になる。狙いは、獲得した選手をクラブのプレースタイルと方向性に合わせることだ。
ピッチの視野と、組織を作る視野は地続きだ
選手として養う力と、スポーツディレクターに必要な力は、同じ地面から伸びている。
ピッチの上で全体を動かす選手は、常に味方の位置を確認し、次に何が起きるかを先読みしている。相手の穴を見つけ、味方の強みと弱みを頭の中で並べ替え、いま最も効く一手を選ぶ。スポーツディレクターの補強作業は、これを数年先まで引き延ばしたものだ。
補強の現場は、いくつもの工程からできていて、まず監督が求める役割や試合のやり方、スカッドの必要性を示す。次にアナリストが、指標や年齢、契約状況、リーグのレベルで候補を絞る。役割ごとの目標値と予算に照らして候補一覧を作る。映像とスカウトの目で、データが実際のプレーと合っているかを確かめる。最後にスポーツディレクターが、戦術的な適合、リスク、人柄、移籍にかかる価値をまとめて判断する。
味方の配置を読む力と、選手構成を組む力。どちらも、今そこにある強みと弱みを見て、次の一手を選ぶ作業である。ピッチで先読みしてきた選手が、その視野をそのまま組織づくりへ持ち込む。学びは、そのつなぎ目を言葉と体系にする役割を果たしている。
選手会が用意した、続けながら学べる道
選手が現役のまま学べるのは、制度が整ってきたからだ。PFAビジネススクールは選手会の教育事業で、現役選手や引退した選手に、サッカーの経営やリーダーシップを果たす仕事に向けて準備する機会を提供している。
この資格は、現役生活と両立できるように作られている。セミナーは試合や練習と重ならないように組まれ、選手は自分の時間で学べる。学位そのものにも裏付けがある。プログラムは2学年にわたって非常勤で行われ、資格はポーツマス大学がPFAビジネススクールと協力して授与する。
運営するのは、この世界を知り尽くした人たちだ。元マンチェスター・シティのスポーツディレクター、アンドニ・スビサレタと、元サウサンプトンの副会長レス・リードがコーディネーターを務める。そして学びが実際の職につながった例も出てきている。このコースを修了した元リヴァプールのゴールキーパー、アダム・ボグダンは、ハンガリーの名門デブレツェニVSCのスポーツディレクターに就任した。
データが変えた、選手のキャリアの読み方
なぜ、経験だけでは足りず、時間をかけて学ぶ必要があるのか?それは、移籍市場の中身が変わったからだ。
いまのクラブは、勘だけで補強しない。分析されたデータの活用が、獲得候補の評価を、担当者の主観から、根拠にもとづく判断へと変えてきた。その結果、スポーツディレクターに求められる能力も変化してきた。複数の情報源をまとめ、変わり続けるトップレベルの要求に対応できる、幅広い経験が要る。
お金の面での制約も重い。スポーツディレクターの仕事は、ピッチ上の結果を超えて広がることが多い。予算の限られたクラブは、移籍市場で価値を生み、それを再投資に回せる人材に助けられる。新しいファイナンシャル・フェアプレーの規則もあって、これはリッチなクラブにとっても無視できない課題になった。
それでも、数字がすべてを語るわけではない。最も優れた補強の仕組みでも、人柄やコミュニケーション、指導への適応力、プレッシャー下での反応までは測りきれない。データは価値を示し、リスクを浮かび上がらせる。だが全てを表しているわけでもない。だからこそ、ピッチの内側を知る元選手がデータの使い方を学び、ピッチとデータをつないで意味を見出す。人脈にもとづく従来のやり方と、精度を上げる分析ツールが同居する今の環境では、スポーツディレクターがどちらにも通じていなければならない。
現役という時間を、二重に使う
コースを取る動機は人によって違う。ボーンマスをプレミアリーグで率いた経歴を持つウィコム・ワンダラーズのスティーヴ・クックにとっては、学生時代以来はじめての本格的な学び直しだった。すでに指導者ライセンスを持ち、現役の終わりが近いことを自覚している。引退が視野に入った選手もいれば、まだ全盛期にいて七年先を見据える選手もいる。
デュズベリー・ホールは、これが自分の情熱だとは言い切らない。「情熱だとは言わない。ただ、選手が現役のうちにこの種のコースを修了できると示すためにやった。どこにつながるかは分からない」
バスは走り続ける。試合が終わって、次の試合までのあいだ、暗い車内でiPadの光がひとつ点いている。プレーする時間の中に、次を仕込む時間を重ねている選手がいる。同じ一日を二重に使うその手つきは、目立たないところで続いている。
全盛期の現役選手が、移動の空白時間で次の設計図を静かに仕込む継続の力。