髪の毛の1/10サイズのロボット5000個で狙う宇宙の座標
By Silent Energy Inc.[公式] on
The Conversationが、宇宙の三次元地図を作る望遠鏡の「死角」と、それを埋める技術について伝えている。派手な観測装置の裏側で、数千の小さなロボットを動かす地道な工夫がある。
宇宙の解像度は、望遠鏡の口径や計算力だけでは決まらない。狙った銀河に光ファイバーの先端を合わせる、その位置決めの正確さが地図の細かさを左右する。数ミクロンの精度を積み重ねる研究者たちの静かな努力が、ここにある。
Even the best telescopes have blind spots. This fix can help us build better maps of the universe (The Conversation)

宇宙の三次元地図を作る、と聞くと巨大な望遠鏡を思い浮かべます。口径が大きいほど遠くの銀河の光を集められます。ただ、それだけでは地図の細かさは決まりません。狙った銀河の一つひとつに、光を受け取る細いファイバーの先端をどれだけ正確に合わせられるか。地図の解像度は、この位置決めの正確さで頭打ちになります。アリゾナの望遠鏡に載る装置の数字を並べると、その細かさが見えてきます。
5000本のファイバーを、一度に動かす仕組み
アリゾナのキットピーク国立天文台に、口径4メートルのメイオール望遠鏡があります。その先端に載るのが、DESI(ダーク・エネルギー・スペクトロスコピック・インストゥルメント)という装置です。5020個のロボット式ファイバーポジショナーが、2019年にこの望遠鏡へ取り付けられました。
望遠鏡が集めた光は、直径約80センチの焦点面に届きます。この面に5000個の小さなロボットアームが並び、それぞれが一本の光ファイバーを握って、その先端を銀河やクエーサーの光をとらえる位置へ運びます。ファイバーが受け取った光は分光器へ送られ、そこで色に分解されます。銀河がどれだけ遠ざかっているかは、この光の色のずれから分かります。
焦点面は10枚のくさび形の花びらに分かれていて、それぞれに500個のポジショナーと、望遠鏡の向きと焦点を助ける小さなカメラが入っています。500かける10で、5000個。各ロボットが握るファイバーの太さは、人の髪の毛ほどしかありません。
「寸分違わず」を数字にすると
では、その位置決めはどのくらい正確なのでしょうか。光を十分に受け取るには、ファイバーを狙った位置から3ミクロン以内に合わせる必要があります。
3ミクロンは、髪の毛の太さのおよそ30分の1にあたります。最初の動きでは、その精度に届きません。そこで別のカメラが全ファイバーの実際の位置を撮影し、狙いとのずれを測り、小さな動きで補正します。それぞれのファイバーの位置が、目標の銀河の座標から予測される位置と比べられ、いくつもの細かい動きで正しい場所へ運ばれていきます。この撮って直すやり取りを重ねて、最終的な精度に持っていきます。

しかも5000個は狭い場所に詰め込まれています。視野をできるだけ広げるため、ポジショナーは平均10.4ミリの間隔でびっしりと並び、その間隔は各ロボットが動ける範囲より狭いのです。だから隣同士の守備範囲が重なります。位置決めのソフトウェアが、隣り合うロボットどうしがぶつからないように動きの順番を組み立てます。
10分ごとに、全部を組み替える
この装置がすごいのは、一度合わせて終わりではないところです。一つの空の領域を撮り終えたら、望遠鏡は次の領域へ向きます。そのたびに5000本のファイバーを、次の銀河の並びに合わせて組み替えます。
ロボットは10分から20分ごとに自動でファイバーを狙い直し、それぞれ数ミクロンの精度で、2分以内に組み替えを終えます。撮影と撮影のあいだの、わずかな時間で全体を並べ替えるのです。5000本すべてが、露出と露出のあいだの120秒以内に位置につく必要があり、他の作業と並行できない場合には45秒で組み替えを終えなければなりません。
この速さが、そのまま測れる銀河の数につながります。5年間で3500万個の銀河やクエーサーの光を測り、これまでで最大の宇宙の三次元地図を作ります。一夜に何千個、それを何年も繰り返した先に、数千万という数が積み上がっていきます。
集める力と、合わせる力の合わせ技
どれだけ大きな望遠鏡でも、一度に一つの銀河しか撮れなければ、地図は永遠に完成しません。光を集める力と、その光を正しいファイバーへ運ぶ位置決めの力。この二つが噛み合って初めて、宇宙の地図は細かくなります。
地道な部品の集まりは、想像より大きいものです。焦点面のシステムには5020個のポジショナーとファイバーのほか、6台のガイドカメラ、4台の波面カメラ、123個の基準光源、主鏡に取り付けた計測カメラが含まれ、全体で67万5000個を超える部品でできています。この一つひとつが、数ミクロンの正確さを支えています。
数千から、数万へ
この位置決めの技術には、はっきりした歴史があります。かつては、人の手でやっていました。初期のシステムでは、空の領域ごとに専用のアルミ板を作り、そこにあらかじめ開けた穴へ、ファイバーを一本ずつ手で挿していたのです。
スローン・デジタル・スカイ・サーベイの板を使う方式では、段取りに何ヶ月もかかりました。2021年まで、この方式では各板を観測の数ヶ月前に計画し、前日に手作業で挿し込む必要があり、板を交換するたびに20分の時間がかかっていました。DESIのロボット化は、この手作業を自動の組み替えに置き換えました。
そして競争の軸は、ロボットの数へと移っています。かつての望遠鏡が一度の観測で並べられたファイバーは392本や640本でしたが、2019年から2020年に立ち上がったDESIは、一度の露出で最大5000個の銀河を測る、この種で最も強力な装置になりました。その先も見えています。次世代の宇宙論に向けて、2万5000個の光ファイバー位置決めロボットが検討されているのです。
望遠鏡の大きさをめぐる競争と並んで、いくつのロボットを、どれだけ正確に、どれだけ速く同時に動かせるか。宇宙の地図の細かさは、この数字の積み重ねで決まっていきます。派手な発見の裏で、数ミクロンを合わせ続ける手仕事の延長が、静かに続いています。
数ミクロンの位置決めを何千回も繰り返す地道な制御が、宇宙の地図の細かさを支えている。
