須田誠氏(アーティスト/写真家)インタビュー
須田誠(アーティスト/写真家) 「写真は“生き方”そのもの」と語る須田誠氏は34歳で初めてカメラを手に取り、47歳でデビュー した。世界各地を旅して周り、撮られた写真と紡ぎ出された言葉が収められた『No Travel, No Life』(A-Works発行、2007年)は今も人の心を突き動かし続け、“自由”への扉を開いている。音楽、旅、そして写真へと、型にハマらず“表現”を追求してきた氏独特の写真論から浮かび上がってきた“静かなるエナジィ”とは。?
■サイゴンで気付いた、ファインダー越しに覗く“小さな映画館”
?–須田さんがカメラを始められたキッカケは何だったんでしょうか。
? 須田:シンガポールを旅していたとき、たまたま安く売られていた一眼レフが目に入ったんで す。旅に出たのが34歳で、それまで写真を撮ったことはありませんでした。世界の旅を続ける 中で出逢った旅人に使い方を学びながら、写真を撮り続けました。結局、デビューしたのが47歳なので僕はかなり遅咲きかもしれないですね。 ? あるとき、ベトナム・サイゴンでリクシャに揺られ街中を走りながら、写真も撮らずにファインダー越しにただ覗いていたんです。そのとき、「うわぁ。コレどんな映画より面白いや」って、この中から写真を撮っていけばいい、なんだかカメラって“小さな映画館”のようだと思ったんです。この世の中は基本的に動画じゃないですか。止まっているように見えても、絶対にミクロの次元では振動している。だから僕は実際にファインダー越しに映画を見ながら、静止画(=ワンシーン)を撮っているというイメージなんです。 ? ファインダーを覗きこんでもらうと分かると思うのですが、風景が見えている部分をそのまま“映画のスクリーン”と見立てるのです。その手前にカメラ内の黒い部分が見えますよね。ここに小人が座っていて僕が撮っている写真を鑑賞していると思っているのです。僕は“小さな映画館”の中で良いシーンを切っていく仕事をやっているんです。
■「写真は押すだけ」一ミリ指を動かす所作に凝縮される生き方
僕が今やっている写真のワークショップでは、いわゆる絞りがどうとか、機材がどうとか、技術をメインに教えるんじゃなくて、僕が経験してきたことを“写真ワークショップ”という形で表現しているんですよ。
絵を描く場合キャンバスがあって、デッサンをして、絵の具を混ぜて色を作って、一筆目を入れてっていうふうにすごく時間がかかりますよね。対して写真は指を一ミリ動かしてシャッターを押すだけで撮れてしまいます。カメラには全てアルゴリズムが組まれているので、最新のカメラなら僕が押そうが、アマチュアが押そうが、赤ちゃんが押そうが綺麗に写真が撮れるんです。じゃあ何が違うのかというと、やっぱり“生き方”。あやふやな生き方をしていたら、写真もあやふやになってしまう。真面目な人は写真も真面目になる。篠山紀信やアラーキーが撮る写真は、仮にそれがコンデジで撮られたものでも「何でこれが撮れるの」っていうくらい違う。
よく若者に「須田さんの夢って何ですか?」とたずねられますが、「夢なんかないよ」って答えるんです。夢って100%で動けば叶うものじゃないですか。でも今の若者って99%くらいの覚悟で「3年勤めて会社辞めて、旅に出ます」とか言うんですけど、99%で言ってるから、結局行かない子が多い。親に言われた、彼女に言われた、とかで。100%の覚悟なら絶対に行けるんですよ、100%なんだから。
■写真家は未来にもっとも近い場所で遊んでいる
一眼レフにしても最高のシャッタースピードって1/8000秒なんですよ。オリンピックの競技でもせいぜい1/100秒くらいなわけで、1/8000秒ってもうとてつもなく短い時間ですよね。見たことも、聞いたこともないくらい、すごく短い。同じ1秒間の中で、100番目に撮る人もいるだろうし、7829番目に撮る人だっている。7999番目より先は次の未来じゃないですか。そういう意味で僕らは未来にもっとも近い場所で仕事をしているのかもしれない。次の1/8000秒のところって未来なのに、捕まえられないっていう。だからどんな遊びよりも面白いですよ。F1でも1/1000秒なので、ここまで未来に近い場所で遊んでいる人って写真家をおいて他にいないのではないでしょうか。
同じ1秒の中でも、ココで撮った人とソコで撮った人は違うんですよ。この1秒の間に空気は流れて、日は昇って、地球は回って、どこかで星が生まれて死んで、誰かが死んでは生まれてって いうことが行われているので、ココの意味とソコの意味は全く違う。最近はカメラの性能も上がってきてるので、誰がとっても一見一緒に見えたりもするんだけど、生き方によってやっぱり 違うんですよ。
? もう少し身近なレベルでいうと、例えば今すごく綺麗な夕陽が落ちていて、周りの目が気になって恥ずかしくて取り逃してしまう人がいる。明日同じ場所に同じ時間に来ても、もう撮れないわけですよね。以前、ライブの撮影に行ったとき、サブカメラを持っていくのを忘れてて、一台しかなかったカメラが壊れてしまって…。カメラを持っていたお客さんに「すいません、カメラ貸してください」と借りたことがあります。結局、写真って撮ったら1だし、撮らなかったら0なんですよ。僕が撮ったこの写真は、もう二度と撮れないわけです。そう考えると、飲み会で女の子がピースで撮ってる写真もすごく大事なんですね。今の日本だってテロが起こりかねない時代で、もしかして明日戦争があって会えなくなるかもしれないし、何が起こるか分からないですからね。撮れば1、撮らなかったら0。「何でもいいから、撮っておいた方がいいよ」ってよく言ってます。
■“静かな”写真の裏にある、エナジィに溢れた生き方
「ジブン」という国には、ルールなんてない。
あるとしたら生と死だけだ。
「ワタシ」という国には、レールは一切敷きたくない。
あるとしたら自分が歩いてきた二本の轍だけだ。
(須田誠『No Travel, No Life』より)
?須田氏の肩書を形容するのは難しい。なぜなら本人が肩書・地位から自由であり、型にハマろうとしていかないからである。しごく自由なスタンスで音楽、旅、そして写真と表現スタイルをスライドさせてきた氏は「47歳で写真家デビューは遅咲きかもしれない」と語っていたが、それ以前の経験なくして写真を撮ることはできなかったのではないだろうか。なぜなら氏が言うように、写真とは生き方そのものに他ならないからだ。
須田誠写真ワークショップ
初級クラス http://travelfreak.jp/ws-beginner/
写真・表現力アップクラス?http://travelfreak.jp/ws-hyougen/
(文: 長谷川リョー) フリーライター。東京大学大学院学際情報学府在籍。
(写真:高田広太郎) KOHO of サイレントエナジー株式会社