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椿野武彦氏(書道家/フォトグラファー)インタビュー #1/3

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椿野武彦(書道家/フォトグラファー)

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「僕は、魚の心まで裸にしたいんですよ。一番、キレイな瞬間を切り出すの。その時間は、5秒とないんだけど、そのためなら何時間でもかけますよね。」魚のヌード写真を撮るという写真家・椿野武彦。彼は写真家であると同時に、書道家でもあり、詩人でもあり、日本とトルコに詳しい文化人でもある。人は、”ヌード写真”、”魚”、と聞いてギョッとする(魚なだけに)わけだが、彼と話していると、知らぬ間に引きこまれている自分に気づく。そして、皆(椿野さん当人を含む)の想像する以上に、女性ファンが多い。

 

Fish Nude Photographerの“静かなるエナジィ”とは。

 

“静かなるエナジィとは何か、その根源で繋がるメディア”。

そのコンセプトで始まった当ウェブサイトで、魚のヌード写真が最も多く掲載されている今日このごろ、皆様は椿野氏の静かなるエナジィを感じてくださっているでしょうか。

もともと、編集・高田との浅からぬ仲から始まったこの企画、椿野氏へのインタビューから彼の静かなるエナジィをFish Nudeの外から浮き彫りにできればと考えております。

 

なお、インタビューは、取材が長時間におよんだため、全3回にわけてご紹介いたします。

 

Takehiko Tsubakino @ the CHAOS ASIA 2014

Photo Credit: Kotaro Takada

 

魚のヌードを撮る男

 

2014年、10月末。

シンガポールで開催のピッチイベント”the CHAOS ASIA”に釣り竿を持ってあがった日本人。

椿野武彦、39歳。

軽快なラップと共に現れた彼は、トルコで書を修めた書道家でもある。

 

ピッチにおいて、魚のヌード写真という、ある種、新しいアートを提案した彼は、会場に来ていた外国人に囲まれて、目をキラキラさせていた。

 

「この写真どうよ?エロいだろ?」

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国籍なんて関係ない。彼と話した人が、彼の自費出版本が買っていった。

 

 

Fish Nude?

 

服を着ていない魚なのにヌードなの?と聞かれれば、(天才写真家・アラーキーのように)身も心も裸になってもらってるんです、という答えが返ってくる。彼の世界観はユニークそのもの、普通に生活していては思い付かない発想であふれている。奇人、変人、アイデアマン、そんなレベルではなく、ひたすらにユニーク。

 

言うなれば、行動力抜群の変態…(良い意味で)

 

ただし誤解してほしくない。彼の言うヌードとは、アートとしての表現物である。彼が注目しているのは、けして魚の模様や見た目の違いなどではなく、魚の目線であったり、肉の艶であったり。文化として魚の美しさを楽しんでいたことを残していきたいという想いがベースにある。

 

「魚の刺し身って、死んでても、美しく見せられるんですよね。ヒレはけしてわかりやすい手足っぽくはない。オブラートに包んだ、手足のようなものと呼ぶべきか。微妙な存在。そう、微妙な位置にいるんです、魚って。極端な話、牛の死体の写真だったら誰も見たくはないですよ。一方、魚は、活造りがあっても見たいと思う。美しいって思う人が多いんじゃないですか?だからこそ、表現の幅がある。可能性がすごくあるなと感じる。魅力をだしていけるんじゃないかと。」

 

椿野氏の表現を借りると、おいしくいただく、その過程で見られる美しさはまさに命の燃焼である、と。それってエロくないですか?と。

(きっと)ただ、面白がって、FISH NUDEという言葉を創ったわけじゃない。

 

 

魚への想い、100年SASHIMI文化を残す。

 

もともと、幼少期から魚への愛にあふれていたという椿野氏。

刺し身を作り始めたのは小学生の時。親を始めとする周りの大人が川魚で刺し身を作っていた、そんな姿を見ていて、早く真似をしたかった、それで自分も始めたのだと。

兵庫県朝来町。鮎やうなぎが川にあふれている町が椿野氏の原点だ。

 

「魚を触りまくってましたよ。」

「虫も好きだったけど、魚が不思議な生き物だった、僕にとって。」

「いろんな色や銀色に輝くカラダ。虫とは違って、目も動く、視線があるように見えるところも不思議ですよね。」

「(朝来町には)デカイ魚はいなくって。ヒレが半透明でキレイだった。濡れてて、ヌメヌメ。釣ってすぐだと飛び跳ねる。」

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椿野氏が魚の話を始めると、3時間は止められない(止まらない、ではなく)。

 

そんな彼がかつて語った夢。それは、SASHIMI文化を100年、200年にわたって残すことである、というものだった。

 

「今、日本でも世界でも、美味しい生魚を食べることができますよね。それが、どんな環境の変化があって、SASHIMIを食べられなくなるかわからない。そうなったら、かつての先人たちが生の魚を食べていた、だなんて言っても信じてもらえませんよ。僕は、この美しい魚たちの姿を、命を、記録して残していきたいんです。」

 

flickrへFISH NUDEを保管している椿野氏のもとへは、ドイツをはじめ、海外から画像を使わせてほしいというオファーも多い。SUSHIやSASHIMIが世界で楽しまれるようになっていく中で、魚の美しさに注目する人たちが現れてきているのも事実だ。

 

魚と戯れて数時間、疲れ始めた椿野さん

魚と戯れて数時間、疲れ始めた椿野さん

 

−−なんで書道家なのに、書ではなく、写真だったのですか?

 

「本当に僕が美しいと思ってるものってなんだろうな、と考えた時に、魚だなと思ったんですよね。毎日でも飽きないし、小さいころから釣りをしていたし、スーパーでも鮮魚コーナーに張り付いていた。で、この感覚ってなんだろう、どうやったらひとに伝えられるかなと思った時に、文字で伝えるのは難しかった。そこで写真を撮り始めたんですよね。」

 

彼の写真家としての活動は、まだ始まったばかり。FISH NUDE、100年活動。

 

 

魚のヌード写真を撮るということ。

 

「僕ね、魚の写真を撮るときは、目線を気にして撮っているんですよ。魚ならでは。」

「ほら、この写真、見てください。魚のそり、筋肉の筋!これ、水の中にいたら絶対に見られない部分なんです。この瞬間を撮るために、どれだけ時間を使ったことか。」

「このね、投網に引っかかってる写真、魚は自分が捕まったって気づいたとこなんですよ。だから水の中でいる時のような、弛緩した、緊張感のない表情じゃない。引き締まった顔してるでしょ。」

「あーエロい、この写真はエロいでしょう!この紅さが、女性の口紅を想像させますよね。自然の発色なんだけど、本当にジワッとくる!」

 

彼のお気に入りの一枚。

Photo Credit: Takehiko Tsubakino

Photo Credit: Takehiko Tsubakino

 

−−料理人としてのSASHIMIを作る技術も極めていくのですか?

 

「つくろうと思って作ってもダメだと思うんですよね。魚がキレイだっていうのを突き詰めるだけ。たとえば、僕が撮っているのは料理の写真じゃない。それこそ、イカが一番キレイな瞬間ってどんなシーンだろうな?と思いながら写真を撮っているわけですよ。その過程で料理をしているようなもの。だから、料亭の料理人が作れば、もっと美味しいでしょうかもしれないけど、一方で、キレイに撮ることを追求するには、自分の思い通りのものを作ってもらえるとも限らない。

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そういう意味では、FISH NUDEの活動を続けた結果、いつか、料理人では到達し得ない料理の方法があるかもしれない。そういう世界へたどり着けるかもしれないですけどね。」

 

 

なお、彼の直近の夢は、

「いつか、SASHIMIのためだけの、寒いBARを作りたいなと思ってますよ。妻には反対されてますけどね(笑)」

 

そう、既婚者であるという事実も明らかになりましたね。

 

(続く)
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タグ
fish nude, sashimi, 椿野武彦, 静かなるエナジィ