うつくしきふつう=PM10:30、ヘルシンキ=
ArtBy Naho Inoue on
PM10:30
それは8月のこと。
すっかり朝晩の冷え込みが本格的になったここ最近、ふとこの町のことを思い出した。
フィンランド。
真冬には日照時間がたったの数時間になるこの国。氷の国をイメージしていたそこの夏は、気が抜けるほどさわやかでキラッキラな太陽に包みこまれていた。
ヘルシンキの一日
毎朝3時ごろにはぼんやり碧くなりだす空、なんとなく寝るのが勿体なくて早起きをする。
30分ほど歩いて到着する湖畔のカフェにて注文するのは唯一のメニュー、焼きたてのシナモンロールとコーヒー。簡易に淹れられたそのコーヒーのシステムはとてもユニークで、2ユーロを払ってプラスチックのカップに注いでもらう、おかわりにいくと5セントを返してくれる・・それを何回でも。すなわち、飲めば飲むほど安くなるのだ。極端なはなし、40杯を飲むと、タダだ。
なぜそのシステムにしたのかはわからないが、読書をし、会話をし、湖を眺め、その湖にはカヌーを楽しむ地元のひとたち。のんびりコーヒーを飲んで思い思いの時間をすごしてくださいね、という穏やかなメッセージがあるような気がした。
トラムに飛び乗り街へ出てみれば、やはり外を楽しむひとびと。
一方でガヤガヤ活き活きとした街中に、急にシンプルな教会が現れる。その中はまさに静寂。一気に静の世界に引き戻され、またなんとも穏やかな気持ちにさせられた。
市場でひとびとがおやつにポリポリとつまみ歩くのはスナップえんどう
シンプルに塩コショウとハーブで味つけられた、サーモンとじゃがいものディナーは本当にごちそうだった。ちなみにこれももちろん外で。
そして帰りに朝のカフェで。すこし柔らかくなった陽の下、PM10:30を回ってもまだ明るく驚きを隠せないわたしをよそに、皆んな相変わらず思い思いの時間をすごす。その姿は、短い夏の長い一日を、貴重な太陽を、めいっぱい愛でているように見えた。
帰り道に通り過ぎたスタジアムでは、日中のように試合が行われ、これまた陽を惜しむように居座る観客を横目に、眠たい瞼をこすり一足先にベットへ入った。
PM10:30。11月。
たくさん陽を溜め込んだ町は、これからやってくる長く厳しい冬に差し掛かりとっぷりと冷え込む暗闇と静寂に包まれているだろう。