SILENTENERGY.JP

  • facebook
  • instagram
  • twitter
  • youtube

未亡人物語 =Fish Nude #25=

ArtBy on

私はいわゆるデパ地下の魚売り場ような場所も見て回りますが、それはアッと驚く掘り出し物がないか?という目的であって、通常は魚屋さんに行っています。肉屋さん、などと同様に、魚しか売っていない店です。別に、魚専門店だから絶対そちらのほうがいいに決まっている、というのではなくて、いろいろ買ってみて、刺身を作ってみて、の結果です。

 

前にも申しましたが私自身が魚屋さんや料理人として商売をしているわけではないので、イチから勉強と思って通ったのです。魚を昔から見つめてきたといってもそれはそれ、知ったかをしてもすぐに馬脚を現し、魚の仕入れや扱いは素人同然だと見透かされる、と踏んだのです、そして実感としてやっぱり魚屋さんは凄い魚を手に入れているな、ということです。

 

もう当たり前なのですが、凄い魚は数が限られていて、手に入るルートもほぼ決まっており、お得意様以外のところには、そんなに置いてないわけです。最初から、ほかの商売(たとえば地酒)に当てはめて薄々分かっていたのですが、敢えて数年間、様々な季節に様々な魚種を数店で買ってみて、体感として納得しました。

 

しかも、各店によって、得意な魚と不得手な魚があることも分かってきました。このお店はタイやヒラメなど白身が綺麗、ほかのお店は貝が豊富で上質、といった具合です。もちろん、店主御本人に、この魚が得意なんですよね?などと失礼に聞いたわけではなく、買い比べて分かってきたことです。また、店頭に刺身を作った状態でも販売されてますが、その刺身の切り方にも違いがあるのです。スーパーとそう変わらないところもあれば、絶対にスーパーではお目にかかれない美しい薄造りを並べられているお店もあるんです。

 

その中の一つ、私が密かに未亡人のお店、と呼んでいる店があります。普通個店の魚屋さんは男性が主人なことがほとんどですが、ここはいつも妙齢の女性が一人で切り盛りされています。年末の繁忙期にも、男性がいるのを見たことがありません。だから勝手に未亡人なのだと決めつけています。

 

カンパチなどの青魚の大きなものはまず売っておらず、そのかわりタイやヒラメなどの白身の刺身の安定感が抜群にいいんです。仕事が丁寧で、切り身自体がまず美しい。劣化の原因になる皮の端や血も全く残っていません、刺身のサクは常に別のケースに保管されていて傷まないように細心の注意をされているのが分かります。白身はほぼここで買います。

 

最初は、これください、はい◯◯円ね、という無機な会話だけだったのが、一年くらいすると、私が魚が好きで自分で刺身を作っていることが薄々伝わってきます。そして私は「お兄ちゃん」に昇格しました。

 

「お兄ちゃんなァ、今日は運がいいで、すごくいいヒラメやで。日頃の行いがいいんとちゃう?」

 

と言われて買ったらほんとに素晴らしいヒラメ。

 

ヒラメ on 枯れハーブ

Photo Credit: Takehiko Tsubakino

 

<まさか、そのヒラメを、枯れハーブの上にのせて楽しんでるとは夢にも思われまい>

 

先日、そこで珍しくアジを勧められました。淡路の名産のアジでした。

 

「最近はなァ、とにかく東京に行ってしまうんよ。淡路のトツカアジがおいしい、いうて4チャンネルで紹介されてからよ、なかなかこっちに来ンのよ」

 

 

アジの肉塊

Photo Credit: Takehiko Tsubakino

 

〈まさかその艶かしいアジをsashimiにする前に肉塊として観察しているとは夢にも思われまい〉

 

これからもこんな距離感を大切に保ちたいと思います。

 

<つづく>

関連:

タグ
fish nude, アジ, ヒラメ, 未亡人