水窪物語 其の三(完結編) =Fish Nude #8=
ArtBy Takehiko TSUBAKINO on
水窪駅から眼下に川を見たとき、まず石が綺麗だな…と思いました。
水窪の美しい石の上で魚を撮るのです。sashimiを撮るときも、できるだけ刺身が映えるような器の色を、と思うのが常ですが、魚体を撮るときは、地面が皿ですから。そのほうがゼッタイ「らしい」写真になるなぁと興奮していたんです。
<魚を逆さに撮る。これイイんですよ。
グラビアはやっぱり逆さですよ>
魚が逆さ、つまりお腹側が上です。特に意識したわけではないのですが、いろんな角度を試していたら気に入る写真が逆さのが多かったんですね。鰭がきれいに写るからでしょうか。
で、私の好きな写真です。
<アマゴの尾鰭と、イワナの筋肉が同時に写った決定的な現場写真>
イワナの、側面に筋肉が浮き出て、『今から跳ねるぞ』という寸止め写真です。それとアマゴの自然なようで不自然な尾鰭のヒネリ。。。これ撮ってる時には相当エネルギーを吸い取られました。
<逆さからもう一丁>
上のイワナの胸鰭についたアワ。呼吸して、鰭をチョッと動かしたからアワが出たんでしょうね、背中の光沢と妙に合ってて鳥肌です。
<一匹が跳ねると、他も跳ねだしてこの乱れっぷりです。
実際逃げてしまいました>
この後、すべてカルパッチョにしたんですけども。
ここまでで一時間以上、魚たちとやりとりしてましたので、興奮が続きすぎて疲れたのと満足感で河原に仰向けに寝転がりました。水窪の山河に向けて放心状態です。
・・・そこに、『どうです? 撮れました?』的に現われたのがTさんでした。
私はほんとに気を抜いていたので、何か『イケナイもの』を見られたような感覚でした・・・。
<水窪の清流と岩>
翌朝。改めて川に降りました。
何億年をかけて岩石が集まり、そこに渓流ができました。そこに棲む魚を撮りました。
きっと岩石が集まるように、私たちも集まってきました。水に沈んだり、地中で熱を受けたりして集まってきたんです。
また必ず戻ってきます。
水窪物語 完