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文具メーカー・ソニックが「筆箱の開けやすさ」を研究し尽くした成果
By Silent Energy Inc.[公式] on
デザイン誌Core77が、日本の文具メーカー・ソニックのペンケースを取り上げている。四角い箱という当たり前を疑い、開くと筆記具が立ち上がる設計にたどり着いた話。
記事が照らすのは、機能の派手さではない。開ける、というたった一つの動作に手を入れ続ける、静かで執拗な意思である。誰にも文句を言わなかった不便を、それでも見つけてしまう開発者。その目の奥にあるものを探る。
Sonic’s Focus on the UX of Pencil Cases (Core77)
元記事を読む:
https://www.core77.com/posts/144879/Sonics-Focus-on-the-UX-of-Pencil-Cases

文房具マニアと呼ばれる人たちの、静かな熱をご存知だろうか。彼らが語るのは、声高な機能ではない。ペン先の沈み方。キャップの回る角度。指がひらくときの、コンマ数ミリの抵抗。数字にならない微かな違いを、言葉を尽くして語る。
その熱は、静かで深い。
この偏執と言っても過言ではない、そのエナジィを、机の上の小さな道具を、読み解いてみたい。
文房具を取り囲む執念たち
文房具の世界に盛大な注目が集まることは多くない。スマートフォンのように、年に一度、世界を騒がせる新機能が出るわけでもない。あるのは、去年より少しだけ消しやすい消しゴム。去年より少しだけ回しやすいキャップ。その「少しだけ」に、人生の時間を注ぐ人たちがいる。
コクヨの「カドケシ」も面白いコンセプトを実現した文房具だ。10個のキューブが市松模様に組み合わさり、カドは全部で28個ある。普通の消しゴムのカドは直方体だから8個。それを、いつも新しい角で細かい部分もきれいに消したい、という欲求を満たすために生み出されたもの。原形は2002年のコクヨデザインアワードで佳作を受け、翌2003年に商品化されている。
「1個の消しゴムでたくさんのカドが使えたら、、、」
そんな誰かの胸の内で一瞬つぶやかれた『不』を解消するべく動いた人たちがいたのだ。
筆箱は四角なもの!? 当たり前を疑った会社
筆箱は四角い。誰もそれを疑わない。
四角いから机に置ける、四角いから鞄に収まる。理由は後から、いくらでもつく。
機能を突き詰めた結果、あの箱になった——ということになっている。
大阪にあるソニックという会社は、そこを疑った(に違いない)。
クリップとコンパスの製造から始まり、いまは学童用文具を中心に据える日本のメーカーが掲げるのは、使う立場でモノをつくり、だれにでも使いやすく、その工夫がわかりやすいこと。当たり前の裏側を覗く癖がついた会社なんだなと私は思っている。
当たり前は、いちばん強い固定観念だ。立ちはだかる課題は、みんなが正しいと信じている前提にあることが多い。四角い筆箱は、疑われないぶん、手つかずのまま残されていた。開けたとき、中身が見えない。ペンが横たわり、目当ての一本を指で探る。その数秒の、言葉にならない不便。ソニックが手を入れたのは、まさにその隙間だった。
立ち上がる筆箱
答えは、立たせることだった。くるっと開くとマグネットでスタンドに早変わりする「スマ・スタ」。開くと見えないマグネットが底に吸着し、しっかりと自立する。倒れたフタは、スマートフォンの置き場所にもなる。特許を登録済で、2019年にはiFデザイン賞を受けている。
注目したいのは、この機構が「取り出しやすさ」を、言葉ではなく形で言い切っている点だ。文章で説明すれば、「中身が一目で見渡せて、目当ての一本を探さずに取り出せる」と、何十文字も費やすことになる。ただ開くだけでいい。十分に使いやすさが伝わってくる。

※画像はAIが作成したイメージです
不便は、いつも小さな声で囁かれている
これは一例に過ぎず、ソニック一社だけが行なっている話ではない。日本の文具づくりに通底する、地味で偏執的な改良の作法だ。消しゴムのカド。筆箱の開き方。鉛筆削りの止めどき。どれも、生活を止めるほどの不満ではない。むしろ、気づかれないまま流されていく、小さな声だ。
ソニックは、有名大学出身者にはリビングで学ぶ人が多いという話から、消しカスを吸う卓上そうじ機や、手軽に置ける勉強ブースを生み出したという。大きな市場の叫びではなく、日常の隅に落ちている観察を拾う。スケッチ旅行に持ち出せて、ジッパーを開けば道具立てが見渡せるスタンドになる——そんな使い手の声も、この設計を裏づけている。
不便は、いつも小さな声で言う。うるさく主張しない。だから、聞き逃されやすい。良い広告の種も、たいてい同じ場所に落ちている。声の大きな要望ではなく、生活者が言葉にすらしていない、かすかなつぶやき。それを拾える耳を持っているか。文具メーカーの開発者と、言葉を書く人間の仕事は、この一点で深くつながっている。
気づかれない不便を削り続ける手つきが、机上の一動作に宿す静かな執念。