厄介者扱いだったDNAが実は恐竜絶滅後のアリの大繁栄の立役者だった話
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米ScienceDailyが、ドイツ・ミュンスター大学を中心とする国際チームの研究を紹介しています。恐竜を滅ぼした隕石の衝突のあと、アリが1万5000種を超える大グループへ広がった背景に、「動く遺伝子」と呼ばれるDNAの断片があったかもしれない、というもの。
面白いのは、長くゲノムの寄生者と見られてきたDNAが、主役の座に躍り出ている点です。163種ものアリのゲノムを比べ、1億年の歴史を復元した地道な比較研究が、その姿を浮かび上がらせました。
Mysterious “jumping genes” may have helped ants take over the world after the dinosaurs disappeared (ScienceDaily)
元記事を読む:
https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261026225608.htm

いまから約6600万年前、地球に巨大な隕石がぶつかり、恐竜の時代が終わりました。そのあとの世界で大きく数を増やした生き物のひとつがアリです。ドイツ・ミュンスター大学の研究チームは、アリの繁栄を後押しした仕掛けがDNAの中にあった可能性を、科学誌『Science Advances』で報告しました。
1万5000種を超える社会性昆虫の最大勢力=アリ
アリは現在、世界で1万5000種以上が知られています。社会をつくって暮らす昆虫の中で、いちばん大きなグループです。
隕石の衝突に続く大量絶滅は、地球の環境を大きく揺さぶりました。恐竜がいなくなった世界では、ほかの数えきれない動物たちに、新しい姿へ進化し、生息域を広げるチャンスが生まれます。アリはその中から、とりわけ大きな成功をおさめたグループのひとつになりました。では、アリの何がその広がりを支えたのでしょうか。
研究を率いたのは、ミュンスター大学進化・生物多様性研究所(IEB)のルーカス・シュレーダー博士です。国際チームが目をつけたのは「トランスポゾン」と呼ばれるDNAの断片でした。日本語では「動く遺伝子」とも呼ばれます。
厄介者あつかいされてきた動く遺伝子
動く遺伝子は、ゲノムの中で場所を移ったり、自分のコピーを増やしたりできるDNAです。たとえるなら、本の中を勝手に移動して、同じページを何枚も刷り増してしまう紙のようなものです。
このふるまいはウイルスに似ています。持ち主の役に立つわけでもないのに数を増やし、場合によっては病気の原因にもなります。そのため科学者たちは長いあいだ、動く遺伝子をゲノムに寄生する者と見てきました。
ところが近年、見方が変わってきました。DNAの配置が動けば、新しい性質が生まれるきっかけにもなります。進化の材料になりうる存在として、研究者たちが注目し始めたのです。
163種のゲノムで、1億年をさかのぼる
研究チームは、アリ163種のゲノムを集めて比べました。現存するアリの亜科16のうち12をカバーする規模で、いまのアリが持つ遺伝的な多様さを広く見渡せるデータです。この比較から、動く遺伝子が過去1億年でどう変わり、いつ活発になったのかを復元しました。
見えてきたのは、ふたつの関係です。ひとつ目は数の関係で、動く遺伝子を多く持つ系統ほど、いまの種の数も多い傾向がありました。
ふたつ目はタイミングです。アリのいくつかの主要な系統で、古第三紀のはじめ、約6600万年前に、動く遺伝子の活動がそれぞれ別々に急増していました。その直後から、これらの系統は数千種へと広がっていきます。系統ごとに別々に起きた急増が、そろって絶滅直後の時期に重なり、その後の多様化の手前に位置していたことになります。
シュレーダー博士はこう話しています。「隕石の衝突は、環境に劇的な影響を与えました。私たちは、その生態系の激変と、その後のアリの急速な多様化をつなぐゲノムの仕組みを見つけました。それがトランスポゾンです」

匂いで語り合う力が広がった
研究ではもうひとつ、動く遺伝子と、化学信号でのコミュニケーションに関わる遺伝子群の広がりとのつながりも見つかりました。
とくに重要だったのが、匂いを感じ取る「嗅覚受容体」の遺伝子です。アリは匂いの手がかりを頼りに道をたどり、同じ巣の仲間を見分け、ほかのアリと作業を分担します。嗅覚受容体は、アリの社会のほとんどあらゆる場面を支えています。
動く遺伝子がこの感覚の仕組みを広げる手助けをしたことで、アリは化学的なメッセージをより細かく受け取り、読み解けるようになったのかもしれません。複雑な社会をつくるための土台が、DNAの中で整えられていったと考えられます。
霊長類やコウモリにも見られるパターン
動く遺伝子の活発化と新しい種の誕生が重なる例は、アリだけのものではありません。これまでの研究でも、霊長類やコウモリで同じような時期が見つかっています。私たちヒトにつながる系統の歴史にも、同じ仕掛けが関わっていた可能性があるわけです。
役に立たない寄生者と見られてきたDNAの断片は、何千万年ものあいだゲノムの中で数を増やし、居場所を変え続けてきました。研究チームは、その積み重ねが、地球でもっとも成功した昆虫グループのひとつを花開かせる助けになった可能性を、163種のゲノムから示しています。
寄生者扱いされたDNAがアリのゲノムで増え続け、恐竜絶滅後の大繁栄を支えた。163種の比較で見えた1億年の積み重ね
