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世界一デンプンに強い口?アンデスの人の進化

Science

世界一デンプンに強い口?アンデスの人の進化

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科学メディアが、アンデスの先住民が持つ「デンプンを分解する力」の由来を伝えています。ペルーの人々のDNAには、ジャガイモを食べ続けた歳月が痕跡として残されているのだといいます。

派手な効能でも一夜の奇跡でもありません。ただ植え、ただ食べる。その反復が、数千年をかけて身体の奥に静かな作法を刻んだ——食が人を書き換えるという事実の、慎ましくも確かな証拠がここにあります。

Potatoes may have given Indigenous Andeans a digestive superpower (ScienceDaily)

引用)ScienceDaily  Potatoes may have given Indigenous Andeans a digestive superpower
引用)ScienceDaily Potatoes may have given Indigenous Andeans a digestive superpower

型に入り、型を出る。武の道ではそう教わると聞きます。同じ所作を、飽きるほど繰り返す。その果てに、身体は考えることなく動くようになる。

畑もまた、ひとつの型なのかもしれません。毎年、同じ土に同じ芋を植え、掘り、蒸し、食べる。来る年も来る年も。この途方もない繰り返しが、人の身体そのものに刻まれていた。近年の研究は、そのことを示しています。

口の中で始まる、最初の作法

ジャガイモやごはんの主な成分はデンプンです。これはブドウ糖という小さな糖が、長い鎖のようにつながったもの。そのままでは身体に吸収できません。糖ひとつぶの大きさまで分解してはじめて栄養になります。

その分解の最初の一手を担うのが、唾液に含まれる酵素、アミラーゼです。食べ物が口に入るとすぐにデンプンの消化を始め、水を使ってブドウ糖どうしの結合を切り、麦芽糖をつくります。麦芽糖はブドウ糖が二つつながった糖で、これがさらに腸で分解され、ようやく身体の燃料になります。

蒸した芋やごはんを、噛んでいるうちにほのかに甘く感じたことはないでしょうか。デンプンが多く糖の少ない米や芋を噛むと、アミラーゼが口の中でデンプンの一部を糖に変える。あの甘みこそ、口の中で行われている最初の作業の証です。

コピーが多いほど、速く分解できる

このアミラーゼをつくる設計図が、AMY1という遺伝子です。人によって、この遺伝子を何個持っているかが違います。個数は2個から17個まで幅があります。

この差は、そのまま身体の働きの差になります。AMY1のコピー数は唾液中のアミラーゼの量に比例していて、コピー数が少ない人は唾液のアミラーゼも少なく、デンプンをブドウ糖に変える力が下がるとみられます。逆にコピーが多い人は、酵素をたくさんつくれる。唾液のアミラーゼが多いほど、デンプンを小さな糖へと分解する速度が上がると考えられています。

同じ芋を口にしても、コピーを多く持つ人は、その場でより速く、より多く糖へ解いていける。これが「消化の超能力」の中身です。派手な魔法ではなく、口の中の下ごしらえがひとつ、他の人より速い。ただそれだけの差です。

もうひとつ、近年の研究で見えてきたことがあります。コピー数が多い人ほどアミラーゼをたくさんつくることは以前から知られていましたが、コピー数の多さが2型糖尿病を防ぐ方向に働くかもしれない、という見方を新しい研究が支持しています。

ただし証明にはまだ長期の追跡が必要です。デンプンをうまく扱える身体は、血糖の扱いでも有利に働く見込みがある、というわけです。

世界一の口を持つ人々

では、その力をもっとも豊かに備えた人々はどこにいるのか。答えはアンデスの高地でした。

アンデスの先住民は、世界に先駆けてジャガイモを栽培化し、この高地の主食にした最初の人々です。研究チームは85集団、3,723人のAMY1コピー数を分析し、ペルーのアンデス先住民が世界でもっとも多いコピー数を持つことを明らかにしました。

数字にすると、その差ははっきりしています。ペルーのケチュアの人々は中央値で10個。これに対し、進化の歴史を共有しながらジャガイモ栽培の伝統を持たないメキシコのマヤの人々は中央値6個で、他のアメリカ大陸の集団と大きな差はありませんでした。同じ祖先から分かれた近い人々のあいだで、これほどの開きがある。この差は偶然ではなく、食の歴史に結びつく手がかりだと研究チームは考えています。

🖼 本文挿入画像 #1・凍てつく夜のチューニョ作り(俯瞰・広角)(1536×1024)

足すのではなく、削る

心を惹かれるのは、この力が備わっていった道すじです。

研究は、ジャガイモがアンデス高地で最初に育てられたおよそ6,000年から1万年前と同じ時期に、コピー数の多い先住民が自然選択で有利になり始めたことを見出しました。芋を食べ始めたから、その場でコピーが増えたのではありません。コピーの少ない人が長い歳月をかけて集団から減り、多く持つ人が残っていった。

その差は、一世代ごとに見れば慎ましいものでした。10個以上のコピーを持つ人は、一世代あたり1.24パーセント、生存や子孫を残すうえで有利だったと研究者たちは算出しています。わずか1.24パーセント。けれどこのささやかな差が数千年積み重なり、アンデスの人々をデンプン消化の世界一へと押し上げました。

急がず、休まず、目に見えぬ速さで。少なくとも5個のコピーを持つ配列に自然選択の跡があり、アンデス先住民に固有のこの広がりはおよそ1万年前、この地域でのジャガイモ栽培化と時を同じくしていました。

一椀の芋に宿るもの

蒸したジャガイモを、ひとつ、口に運ぶ。ただそれだけの所作の内側で、唾液のアミラーゼがデンプンを分解しています。その働きの豊かさに、一万年の歳月がこもっている。そう思うと、慎ましい一椀の景色が、少し変わって見えてこないでしょうか。

型に入り、型を出る。人の身体もまた、幾千年という時間をかけて、食という型に潜り続けてきたのでしょう。続けることにこそ美は宿る、と言った人がありました。この歳月ほど、その言葉が似合う営みもありますまい。

一世代1.24%という目に見えぬ差が、一万年かけて世界一の口をかたちづくった

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アンデス, ジャガイモ, デンプン, ペルー, 先住民, 進化, 遺伝子, 食文化
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