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「波は幻、富士こそ真実」英紙が読み解く北斎・富嶽三十六景の本当の主役

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「波は幻、富士こそ真実」英紙が読み解く北斎・富嶽三十六景の本当の主役

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英紙ガーディアンが、ロンドンのダリッジ・ピクチャー・ギャラリーで始まった「富嶽三十六景」全作品展を評した。英国で連作がすべてそろうのは初めてで、「神奈川沖浪裏」は刷りの違う三枚が並ぶ。

評者のジョナサン・ジョーンズは、有名な大波を、人をのみ込む怪物として読み直す。そのうえで、連作の本当の主役は、どの絵にもいる富士山だと言う。桶職人も川越えの旅人も山を見ていない。その構図に、移ろうものと変わらないものを見分けよという北斎のメッセージを読み取る評だ。一枚の名画として知っている絵が、36の眺めの中に置くと別の顔を見せる。

Hokusai: Thirty-Six Views of Mount Fuji review – sublime wonders from the Great Wave to that heroic, eternal peak (The Guardian)

出典:Hokusai: Thirty-Six Views of Mount Fuji review – sublime wonders from the Great Wave to that heroic, eternal peak(The Guardian)
出典:Hokusai: Thirty-Six Views of Mount Fuji review – sublime wonders from the Great Wave to that heroic, eternal peak(The Guardian)

ロンドン南部のダリッジ・ピクチャー・ギャラリーで、葛飾北斎の「富嶽三十六景」の全作品を並べる展覧会が10月20日に始まった。英国で全作がそろって展示されるのは、これが初めてだ。英紙ガーディアンの美術評論家ジョナサン・ジョーンズは、この連作の主役は、どの絵にも描かれた富士山だと書いている。

大波も、川を渡る旅人も、雪の茶屋も、富士を引き立てるために置かれている。

ジョーンズの評を手がかりに、1830年から1833年にかけて刷られた連作を見ていく。

刷りの違う三枚の神奈川沖浪裏

会場には「神奈川沖浪裏」、いわゆる「グレート・ウェーブ」の刷りが三枚並ぶ。展示作品は井内コレクションのもので、東京の国立西洋美術館に寄託されている。

白い波頭は細かく割れ、無数の鋭い爪のように広がる。その下で、細長い舟にしがみつく人々がうずくまっている。複製で見ると、この波は青と白の優美な曲線に見える。ジョーンズによれば、実物の前に立つと印象が変わる。波は人をのみ込もうとする怪物で、絵の感情の中心は、いまにも溺れそうな舟の人々だという。

その波の向こうに、小さな富士がある。ジョーンズは、敬虔な仏教徒だった北斎がこの絵に慰めを込めたと読む。山ほどに見える波も、やがて崩れて消える。富士は残り続け、塩水の竜に傷つけられることはない。評ではこう言い切られている。「波は幻だ。富士山こそが真実だ」。

富士を見上げていないひとたち!?

連作のほかの絵では、富士はしばしば地平線の小さな点になる。手前には人々の暮らしが詰め込まれている。

都会の橋の上では、丸い笠をかぶった人々が行き交い、誰も遠くの山を見上げていない。上半身裸の痩せた職人は、桶づくりに打ち込んでいて、富士に目をやる暇なんてないのだ。

東海道の金谷を描いた一枚では、大井川の青と白の荒い流れに、裸の男たちが肩まで沈んでいる。その肩の上に、着物姿の旅人が座る。箱のような駕籠に入った人も、息を切らす担ぎ手に運ばれていく。誇張に見えるが、当時の実際の光景だ。この渡し場は江戸を守る軍事上の要所で、橋を架けることが許されなかった。旅人は人の肩に担がれて川を越えるしかなかった。

ジョーンズは、この奇妙な場面で富士を見ている者は一人もいないと書く。そして、山に気づかないのは、とても大きなものを見逃すことだと続ける。

別の一枚では、渡し守が金色の夕空と深い青の層の下に浮かぶ富士に目を向けている。乗客には、山を見る者もいれば、見ない者もいる。冬に田舎の茶屋まで足を運び、雪の富士を眺める一行もいる。金色がかった白と深い青で刷られた氷の景色が、彼らを待っている。北斎自身も、こうして眺めを探しに出かける側の人だった。

ヨーロッパから来た青、ヨーロッパへ渡った見方

連作を特徴づける鮮やかな青は、プルシアンブルーだ。ヨーロッパで18世紀初めに使われ始めた顔料で、北斎の遠近法の知識にもヨーロッパ絵画の影響がある。

🖼 本文挿入画像 #1(1536×1024)
プルシアン・ブルーのイメージ

影響は逆向きにも流れた。

ジョーンズは、富嶽三十六景がモダニズムの誕生に欠かせない存在で、最初の世界的な傑作だと書く。ゴッホやホイッスラーが浮世絵を集め、手本にしたことはよく知られている。

ジョーンズ自身が見落としていたと認めるのが、セザンヌへの影響だ。セザンヌはプロヴァンスのサント・ヴィクトワール山を何度も描き、岩の塊を細かな面に分けて、その本質に迫ろうとした。その歩みは、富士のまわりを巡った北斎の旅と重なる。モネがルーアン大聖堂や積みわら、睡蓮の庭を繰り返し描いたことも同じ流れにある。風景を形而上の問いとして見ることを、北斎はフランスの画家たちに教えた。

影響は今も続く。写真家ジェフ・ウォールは、駿州江尻の一枚を「突風(北斎にならって)」という写真で再現した。急な風に人々が笠を押さえ、空に紙が舞い上がる場面だ。

36の眺めをひとつながりで見る

ジョーンズが最後に注意を促すのは、一枚ずつを切り離して見ることの危うさだ。大波だけ、江尻の突風だけを取り出すと、それは混乱や無常の図に見える。

江尻の絵にも、背景には富士がある。混乱の向こうに、落ち着いた頂が変わらず立っている。北斎は1830年代初め、ひとつの山を、季節も天気も場所も変えながら、何十もの視点から描き重ねた。ジョーンズはこの連作を、富士をめぐるひとつの長い瞑想と呼び、風景画を概念と象徴の思索として作り直した仕事だと評している。

🖼 本文挿入画像 #2(1536×1024)
北斎を模写する画家のイメージ

展覧会は1月17日まで続く。会場に並んだ三枚の大波の奥には、どれにも同じ小さな富士が刷られている。

葛飾北斎が1830年代初め、ひとつの富士山を何十もの視点から描き重ね、移ろう世の中で変わらない軸を示した連作。

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ガーディアン, ダリッジ・ピクチャー・ギャラリー, 北斎, 富士山, 富嶽三十六景, 展覧会評, 浮世絵, 神奈川沖浪裏
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