うつくしきふつう=蒼い村、Chefchaouen,Morocco vol.1=
ArtBy Naho Inoue on
スペイン最南端からフェリーに乗って船頭のデッキにて。
未知。異世界。ついにやってきたか!!!
・・・という抑えきれない冒険心や高揚をよそに出航30分ほどであっけなく見えてきたそれは
アフリカ大陸、モロッコ
いともスムーズに上陸できたが、荒廃した旧ターミナルのあるその町では、四方八方から飛んでくる、異物をみるような視線に再度気を引き締め直して旅が始まった。
記号にしか見えなく暗号にしか聞こえないアラビア語に、ときどきスパニッシュが混ざりあったガヤつくバスに揺られて数時間、ひたすら目的地へ無事つくよう祈っていたのを覚えている。
無事たどり着いた山奥の村で陥ったのは、魔法にかかったような感覚。
青、蒼、碧。
某魔法のランプものがたりを思い出す独特すぎる雰囲気と香りの中、その色はまさにジーニー色。
そんなアオに染まる村には、とにかくモノがひしめきあったお店と魔女のようなとんがり帽つきマントをかぶった村人がよく似合った。統一感のあるアオと対照に、カラフルな雑貨を漁るのは、まさに宝探し。
「うちのお茶、飲んでいかないかい?」
異物のような視線をくらった入国時と打って変って、迎えてくれたのはスーパーアイドルが来たかのような歓迎。
数歩歩けば声をかけられ、店を覗けば(覗いていなくても足止めされ)お茶を淹れてくれる。
ちょいちょいっと手招きをするおじさんは、褐色の肌に漆黒の目をして、いいシワを刻んだ歯抜けの笑顔。
みんな揃って言うのは「うちの商品、見ていかないかい?」ではなく、「うちのお茶、飲んでいかないかい?」
?
モロッコ家庭の味、ミントティー。
魔法のランプのようなティーポッドにこれでもかというくらいのミントを詰め込み、簡易ガスコンロで沸かす。
手馴れた手つきで小さく背の高いグラスに大量の砂糖と共に茶葉ごと注ぎ入れれば、なんともさわやかで甘い香りが湯気とともにふんだんにたちこめる。そしてそれが最高に美味しい。
そんな魔法のようなお茶パワーによってすっかり打ち解けると、商売人のはじまりだ。
・・・が。
彼らは本当に売りたいのだろうか?と思ってしまうほど、値引き合戦そのものをゲームのように楽しんでいた。
盛りに盛った言い値に対してこちらが気を使わないディスカウント額をいえばいうほど、驚き豪快に笑う。そして譲り合いの末最終的にハイタッチや硬い握手でフィニッシュ。あんなに笑いあう買い物ははじめてだった。
怪しささえ覚える親切心にはじめは警戒心を持っていたが、お茶を酌み交わし気づいたことは、彼らは人が好きということ。無邪気なこどものように、異国人に興味をもち、身振り手振りで会話をし、楽しんでいるのだ。
あれから数年が経つが、今でも彼らのミントティーと値引き合戦は恋しいものリストの上位に君臨し続けている。
ちなみに、綺麗にキープしているアオは、週に一回というものすごいペースで粉を混ぜ合わせて塗り替えているらしい。